これを恋と呼ぶのなら

 そろそろ帰ろうと腰を上げた時。

 先にコンビニ袋を手にしたゆずが「なんかアレだな」と呟いた。

「深夜の星空の下で二人っきりって……。なんか、ロマンチックじゃね?」

 そう言われてハッとした。

 暗い川ばかり見ていた私と違って、ゆずはずっと星空を仰いでいた。

「そうだね」

 私は自然と笑みを浮かべ、今にも降ってきそうな星空を見上げた。

 真っ暗闇を意識すると、恐怖や後ろ向きな感情に支配されるけど。

 空を見上げれば、星々はいつもと変わらず輝きを放っている。

 私も明日からはちゃんと上を向いて頑張ろう。

 それぞれが主張する星たちを見つめ、前向きな気持ちになった。

 スゥッと深呼吸をすると、爽やかな夜気が肺に溜まり、さらに気分が良くなる。

「ありがとう、ゆず」

 そう言って見上げると、彼は眉を下げてフッと笑う。

「ゆずがいてくれて良かった」

 勇気を出して、私はぶらりと下ろした彼の手を曖昧に握る。

 ゆずは驚いた顔で私を見ていた。

 微かな明かりの下で、彼の頬が赤く染まっているのが分かり、どこかくすぐったい気持ちに満たされた。


 ***


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