花鎖に甘咬み



誰にだって、踏み込まれたくない領域はある。
納得して、こくり、頷いて。

それからまた、もごもごと天津飯を咀嚼していると、「ところで」と伊織さんが口を開いた。




「ちぃちゃんは、マユのことが好きなの?」

「う゛っ、ごほっごほっ」




予想外の方向からのド直球ストレートな質問。
まともに食らってしまって、動揺のあまり思わずごはん粒を勢いよく吸いこんでしまった。

むせ返りながら苦しんでいると、伊織さんがお水の入ったグラスを手渡してくれる。




「ありがとうっ、けほっ、ございます……」

「いや、こちらこそ」

「……?」

「わかりやすい反応をどーも」



かあ、と効果音が勝手についてもおかしくなかった。

首すじから、頬、耳まで一気に体温がかけ上がっていく。



真っ赤になりながら、ごまかすべく、スプーン山盛りいっぱいにご飯を乗せて飲みこんで、「ん゛っ」とまた喉をつまらせる。


挙動不審まっしぐらの私に、伊織さんは呆れたように息をついた。




「今さら隠したって遅いし、それに、全然隠せてないよ」

「う……っ、くれぐれもこのことは真弓には内密に……」

「えー、マユが戻ってきたら、俺、口滑らせちゃうかもなあー」



冗談めいた口調でからかってくる伊織さんを睨む。



「ほんとに、怒りますからね……!」

「はいはい、言いません言いません。てか、俺が言わなくても、ちぃちゃんがその調子ならあっさりバレそうじゃない?」




それもそうである。

うう、もっとポーカーフェイスというものを身につけなければならないのかもしれない。





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