花鎖に甘咬み



乾いた声で、は、と笑う。

自嘲めいたその響きに、また、わからなくなる。闇のなかでも余裕めいて見えるこのひとにも、もしかすると、なにかが、あるのかもしれない。


深入りするつもりはひとつもないけれど、でも。気になるものは気になる。




「あの、本城さんって、何をされてる方なんです─────」




ちがった。
ぱち、と両手で頬を軽くはたく。


敬称も、言葉づかいも、“北川家の令嬢” として身につけたものは、ここで捨てていけ。




「……真弓は、ここで、何をしてるの?」




たずねると、真弓はゆっくりと瞬きしたのち。




「あー、そうだったな、お前、〈外〉からの侵入者だったか」

「ええと……」

「ここがどこかわかるか」




ゆっくりと首を横にふる。
なにも、わからない。

わかることといえば、おそらく……とても、危険な場所だろう、ということだけだ。

そんな私の反応に真弓は、はー、と息を吐き出してこめかみに指をあてる。




「つうか、そもそもどっから入ってきた」

「へ……」

「ここ、柵に囲まれてるだろ」

「柵?」

「茨の」



やっと、思いあたる。
きっと、あの柵のことを言っているのだ。

北川家の屋敷の、北側にある高い高い柵。




「あれは、飛び越えて……」

「……。は?」





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