花鎖に甘咬み

旅にでる


× × ×



「どういうことっ?」



堅く頑丈な柵が、びっくりするくらいあっさり開いた。

その隙間をくぐり抜けて。


後ろ手にまたギィィ、と扉を閉ざした真弓に問いただすも、答えてくれる様子はなく。



「話は後で聞いてやる」

「あとで、って」

「まずは移動。長居するとバレる」

「バレちゃ、そんなにだめなのっ?」

「無事でいられるんだと思ってんなら甘すぎ。奥の手っつったろ、奥の手っつうのは、つまり禁じ手だ」

「禁じ────っ、ひゃあっ」



なんの前触れもなく、足が宙に浮いた。
抱え上げられたのだと、数秒遅れて知る。

いつかの指摘が効いているのか、雑な俵担ぎじゃなく、丁寧なお姫さま抱っこ。

でも、落ちつかないのには変わりなく。




「い、いいよっ、自分の足で歩けるっ!」

「あ? もうお前の足ボロボロなのこっちは知ってんだよ。それに、担いだ方が早い」




下ろすという選択肢は、最初からなかったらしい。

あたりまえのように、スタスタと歩き始めた真弓に、私も抵抗をあきらめた。



「あの、真弓、禁じ手って……」

「いいからちとせは、このあと食う寿司ネタでも考えてろ」




遮られちゃった。
よほど、外でははばかられる話みたい。

おとなしく腕のなかで黙りこんだ私に、真弓は薄く笑った。




< 55 / 339 >

この作品をシェア

pagetop