「指輪、探すの手伝ってくれませんか」
心なしか震えた声で「違います」と言った彼に疑問符がたくさん浮かぶ。
え。んん?あれ?
誤解やら勘違いやらを紐解いておよそ二十秒。たったそれだけしか経っていないのにまたしても互いの思考が食い違ったらしい。
待て待て。ちょっと待て。食い違うとこ、ないよね?なかった、よね?
そう思えども返す言葉は見つからなくて、寄せられている眉根をぽやりと見つめていれば、彼は両手で抱えていたマグカップをテーブルに置いた。
「っ僕は!」
「っえ、はい」
「進行形です!今でも、御来屋さんを想って、ます。想っていた、なんて、過去に……っしな、いで、ください」
勢いよく吐き出された言葉が徐々に弱まっていく。寄せられていた眉根は平らになり、代わりに眉尻が下がる。
何だ、何なんだ。
「っえ、ちょ、」
「っぼ、くは、」
なんて、その様を変わらずぽやりと見つめていれば、上から下へ、視界の中を透明なそれが落ちていった。
ぽた、ぽたぽた。そんな、微かな音が聞こえたのはかろうじてまだ早朝といえる時間帯だったからだろう。テレビでもつけていればニュースくらいはしていたのかもしれないけれど生憎テレビはついていないし、スズメはまだチュンチュンしていないから、互いの発した音がなければ呼吸音くらいしか室内には響かない。
「……これからも、ずっ……と……す、きです、」
「……」
「……っ、みく、りやさんが、僕、との関係を……終わらせたい、のは、分かっ……てます……でも、っ、僕、は、」
落ち行くそれを彼は乱暴に袖で拭う。けれど、彼の涙腺は休みなく働いているからか、生み出され続けるそれは重力に従ってソファーへと染み込んでいく。
「……あなたを、あなた、だけを、愛して、ます、」
不安、焦燥、悲哀。
ぐちゃぐちゃに混ざり合って、けれどどうにもならないそれを切実に訴えるその声が私の鼓膜を揺らした。