獅子に戯れる兎のように
【17】獅子と兎の交わらない想い
【柚葉side】

 朝食もとらず、いつもより早く出勤した私。

 駅前のカフェに入り、モーニングセットをオーダーする。

 日向をずっと避け続けるわけにはいかない。やはりケジメをつけなければ。

 無料の賃貸情報誌をパラパラと捲るものの、女性が安心して暮らせるオートロックのマンションは家賃は高く、手頃な家賃だけで選ぶと今よりも立地条件も悪く、何よりも通勤に不便だった。

「……暫く両親と暮らそうかな」

 今更両親や妹と同居したくはないが、そうすれば日向が訪ねてくるこもないだろう。

 実家に電話すると、すぐに母が電話に出た。

『おはよう。柚葉から電話なんて珍しいわね。こんなに朝早くどうしたの?』

「おはよう。お父さんまだいる?」

『いるわよ。ちょっと待ってね』

 暫くすると父の声がした。

『どうした。何か急用か?』

「お父さんあのね……」

『体調はもういいのか?』

「もう大丈夫。相談があるんだけど……。私、そこに引っ越してもいいかな?」

『寮を出るのか?』

「入寮希望者が待機していて。実家が東京にある者は寮を出なければいけなくなったの。単身者向けのマンションも探しているんだけど、家賃が高くて」

 入寮希望者の待機がいるのは本当だが、口実に過ぎない。

『そうか。会社の規定なら従うしかないだろう。このマンションには柚葉の部屋は最初から用意してある。父さんが東京勤務の間はここに住めばいい』

「いいの?ありがとう。直ぐに引っ越したいの。荷物も少ないし、荷造りも時間掛からないから、次の休みに引っ越してもいい?」

『わかった。母さんに言っておくよ』

「うん。もう仕事に行くね。じゃあ……また連絡する」
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