獅子に戯れる兎のように
【18】獅子の熱い想いに兎の揺らぐ心
【柚葉side】

 電車のホームにいると、木崎から電話が掛かる。

「はい。雨宮です」

『雨宮さん、早朝に申し訳ありません。お電話差し上げていいものかどうか迷いましたが、先日お話していた望月と本平さんのお祝いパーティーの件ですが……』

「はい」

『望月からも、本平さんの体調に考慮し、仲間うちだけでとの申し出があり、みんなが気楽に集まれる場所を予約しました。本平さんの了承は得ていますが、雨宮さんも……是非参加していただきたいのですが……』

「木崎さん、先日は申し訳ありませんでした。木崎さんにちゃんと逢ってお詫びしたいと思っていたので参加させていただきます」

『今回のパーティーは少人数ではありますが、望月と本平さんの祝いの会です。私達の話はやめましょう。場所は来週木曜日渋谷のマリエージュで午後六時半からとなっています。木曜日は店休日だと、本平さんから伺ったので』

 渋谷のマリエージュ。
 ホテルに引けをとらない本格的なバイキング料理を提供する店で、雑誌にも再三取り上げられた人気店、東京のガイドブックにも掲載されている。

「木崎さん、私……。優柔不断な態度をとり、申し訳ありませんでした。医師である木崎さんに……自分が本当に相応しいのかどうか、不安になったんです。留空みたいに……自分の気持ちに素直になれなかった」

『雨宮さん、それは違いますよ。雨宮さんはご自分の気持ちに気付いたから、あの日私の誘いを断った。あの日の行動は、雨宮さんの素直な気持ちなんです』

 木崎は私と日向が、あの日一夜を共に過ごしたことは知らない。

 それなのに……
 木崎の言葉はとても重みがあり、私の心の奥底まで浸透していく。

 私があの夜、日向と一緒に過ごしたのは、そこに恋愛感情があったからではなく、酒に酔い正常な判断が出来ず、ただ自分の寂しさを埋めたかっただけだと、思っていた……。

 でも……本当は……
 心のどこかで日向に……?
< 166 / 216 >

この作品をシェア

pagetop