獅子に戯れる兎のように
【21】獅子に抱かれ燃え上がる恋
 「虹原さん、山川さん、本日はご結婚おめでとうございます」

 11月、都内のホテルで行われた披露宴。私はその披露宴会場で、同課の女子社員を代表して祝辞を読み上げる。

 先週は望月と瑠空の挙式披露宴があり、陽乃や美空と祝辞を述べ、歌まで披露したばかり。

 さすがに二週続けての挙式披露宴は、二十七歳の私にはダメージが大きい。

 まして今回は、元カレの披露宴なのだから、尚更だ。

 なに食わぬ顔で雛壇に座り、純白のウェディングドレス姿の山川の隣で微笑む虹原に、『役者だな』と思いつつも、私自身も『女優だな』と思ってしまう。

 スラスラと祝辞を読み上げ、「虹原さん、山川さん、末永くお幸せに」と、スピーチを締めくくる。

 山川の目から涙が溢れ、虹原は然り気無く白いハンカチを差し出した。

 拍手を浴びながら席に着く私。拍手を浴びているのは、私ではなくあの二人だ。

 もしもあの時、虹原を受け入れていたなら、雛壇に座っているのは山川ではなく私だったのかな……。

 そんなことを考えながら、椅子に座る。

「さすが、手慣れたものですね。部長である私の方が、緊張してトチるなんて、お恥ずかしい限りだ」

「いえ……」

 それって、部長。誉めてないよね?
 完全に皮肉っている。

 学生時代の友人や、花菜菱デパートの同期や後輩が結婚するたびに、スピーチを頼まれる私。

 場慣れしてしまうのは、仕方がない。このままみんなを見送り続けるのかと思うと、若干嫌気もさす。

「雨宮さんお疲れ様です。素敵なスピーチでした」

「ありがとう」

 何故か私の隣は、日向だ。
 山川は私と日向のこと、察していたのかな。
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