獅子に戯れる兎のように
 再び重なる唇。
 何度も角度を変え、唇を捕らえて離さない。

 腰がズズッとずり落ち、抱き締められたままフローリングの床に寝転がる。

「……待って。リビングには両親がいるのよ」

「わかってるよ。これ以上はしない。ずっとキスしていたいと思うのは、おかしいのかな」

 グイグイと心に侵入してくる日向。決して受け入れることも、交わることもないと思っていた相手に、いつの間にか心を支配されている。

 甘いセリフにドキドキしてしまう私。
 どちらが年上なのかわからない。

「今夜はもう帰るよ」

「うん」

 乱れた髪を直し、日向に手を引かれ立ち上がる。

「タクシー呼ぶ?」

「電車で帰るから大丈夫。少し飲み過ぎたかな。胃が痛むし、酔いを冷ませたいから、駅まで歩くよ」

「ごめん。父の晩酌に付き合わせてしまって。大丈夫なの?」

「平気、平気」

 リビングで寛ぐ両親に、日向を送ると告げ、私達は家を出る。エレベーターに乗りマンションの一階に降りた。

 マンションの入口の前に、一台の黒い車が止まっていて、車中では男女が抱き合い熱烈なキスを交わしていた。

 こんな場所で堂々と。
 何を考えているんだか。

 見入ってしまったこちらが恥ずかしくなる。

 思わず背を向け、日向と苦笑い。

 バタンと車のドアが閉まり、車は走り去る。自動ドアが開き靴音が近付く。

「やだ。お、お姉ちゃん……!?」

「お姉ちゃん!?」

 その声に、思わず語尾が跳ね上がる。

「ずっと見てたの?厭らしい」

「はぁ!?厭らしいのはそっちでしょう。そこはマンションの玄関なのよ。ここはお父さんの銀行の社宅なの。恥ずかしいことしないで」

「キスして何が恥ずかしいの?自分達も部屋でしてたくせに」

「……っ」

 売り言葉に買い言葉。
 思わず両手で唇を隠す。
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