乳房星(たらちねぼし)・ドラマノベル版

【足手まとい】

その一方で、ゆみさんのムチャブリを受けたけんちゃんとてつろうは苦戦を強いられていた。

マリンホールディングスからデリシャン株49パーセント分を取得するために、石頭のCEOにジカダンパンをしていた。

しかし、SPたちからボコボコにいて回されてさんざんな目に遭うてばかりいた。

けんちゃんは、ゆりこと結婚したいのでリタイアすることができん。

てつろうは、日増しにジレンマをつのらせるようになった。

『オレ、こななところでなにしてんだろうか?』
『オレがしたいのはこなな仕事じゃなかった。』
『大学の教授になりたいから大学院へ行ったんじゃあなかったのか?』
『大学時代の恩師の娘とお見合い結婚したかったんだけどぉ~』
『大学で研究したいんだけどぉ~』

てつろうは、自らの不満をけんちゃんにぶつけるようになった。

不平不満を口にするてつろうがはぐいたらしくなったけんちゃんは、てつろうを実家へ帰すことを訣意(けつい)した。

『そないに不満ばかりを言うのであれば、親元へ帰れや!!』
『オドレは、単に逃げたいから大学院へ行ったのか!?』
『大学教授になりたいだと!?』
『ねぼけたこといよったらしゃーきまわすぞ!!』
『オドレはオレからゆりこをドロボウしたから、一生うらみ通すからな!!』

けんちゃんは、てつろうに対して言いたいことをボロクソに言いまくった。

そうしたことが原因で、ふたりの関係は気まずくなった。

それから2日後のことであった。

けんちゃんは、てつろうを連れて尾鷲市にやって来た。

時は、朝10時半頃であった。

場所は、たつろうさんの実家にて…

家の敷地で、あずさのふたりの子供が遊んでいる。

けんちゃんは、あずさの長女に声をかけた。

「ねえ、君たち。」
「なあに?」
「ここ、多賀てつろうさんのおうちかなぁ~」
「多賀はうちだけど…」
「ほーなん…すまんけど、おかーちゃんおる?」
「おかーさん、おらん。」
「おとーちゃんは?」
「おとーさんは、テッポーでうたれて死んだ…」
「ほーなん…ほな、じいじかばあばいる?」

けんちゃんの問いかけに対して、あずさの息子が『ぼく行って来る…』と答えた。

あずさの息子は、家の中に入って行った。

ところ変わって、家の中にある大きな土間にて…

土間には、政子がいた。

政子は、今朝収穫したばかりの長ネギのしっぽについている根っこをはさみで摘み取る作業をしていた。

この時、あずさの息子が呼びに来た。

「ばあば。」
「(めんどくさい声で)なんやねんもう~」
「ばあばにお客さんが来てるよ。」
「(めんどくさい声で)また新聞のカンユウでしょ…」
「違うよ。」
「(めんどくさい声で)ほんなら、シューキョーのカンユウでしょ…」
「違うよ。」
「(ますますめんどくさい声で)ばあばはいそがしいから帰ってと言うといて…」

そこへ、けんちゃんがてつろうを連れて土間に来た。

「あの~、すんまへんけどぉ~」
「(ものすごくあつかましい声で言う)なんやねんもう~」
「あの~、ぼくは行方不明になった家族をお宅へお送りするためにここに来たんですがぁ~」

けんちゃんの呼びかけに対して、政子はあつかましい声で言い返した。

「あのねぇ、うちは行方不明になった息子たちなんかどーでもええねん…みつろうとたけろうと逸郎は家出した…あつろうたちシングルきょうだいたちはケーサツに逮捕されて起訴されたけん、突き放したのよ!!せやけん、関係ないのよ!!」

けんちゃんは、政子に対してこう言うた。

「ほな、ここにいるてつろうさんもジャマだと言うのですね…せやけど、てつろうさんはドゲザしてあやまりたいと言うてんねん…それでも拒否するんやねぇ…」

けんちゃんは、後ろにいるてつろうに『はよドゲザせえや!!』と怒った。

てつろうは、けんちゃんの言うとおりに政子の前でドゲザした。

「オカン…すんまへん…」

政子の前でドゲザしてわびているてつろうに対して、政子は怒鳴り声をあげた。

「てつろう!!」
「(女々しい声で言う)オカン、こらえてーな…この通り…」
「(怒号をあげる)てつろう!!今日までの間どこでなんしよったんで!?」
「(女々しい声で言う)この通りこらえてーな…オレ、心入れかえる…」
「(怒号をあげる)なにいよんかしら!!あんた頭おかしいんとちゃうで!?」
「(女々しい声で言う)オレは本気なんだよぅ…分かってーな…」
「(怒号をあげる)やかましい!!帰って来るな!!てつろうのせいで和子にエンダンが来んなったんよ!!あずさが子供連れて出戻ったのよ!!」

この時、けんちゃんが政子の前でドゲザして許し乞いをした。

「なにしよんで!?」
「おかーさま…ぼくからもお願いです…てつろうさんをこらえたってーな…」
「そななきたないてぇつこて許し乞いをしてもこらえへんけん…うちの声が聞こえへんの!?」

けんちゃんは、政子に対してなおも許し乞いをした。

「ぼくがこないにいよんのに、てつろうさんを突き放すんやね…分かりました…ほんなら出てゆこわい…」

けんちゃんは、立ち上がって出てゆく前に政子に言うた。

「けど、ぼくはお母さまのいよることが理解できません…和子さんのエンダンが来なくなった原因やあずささんの出戻りの原因は、全部てつろうさんにあると言うたねぇ…それはあんたの思い違いだ…あんたらは、てつろうさんがおらんなったら和子さんが幸せになれると思てはるけど…和子さん本人はそのようには思ってへん…ちゃいまっか!?…お願いです…もう1度だけてつろうさんにチャンスを与えたってください。」

けんちゃんの呼びかけに対して、政子はけんちゃんに言うた。

「あのねぇ、心入れかえてここでやり直すと言うてもねぇ…受け入れてくださる場所と言うたらお役所仕事しかないのよ。」

政子の呼びかけに対して、けんちゃんはそれでもいいと言うた。

「お役所仕事でもかまんけん、てつろうさんにもう1度チャンスを与えてください!!この通りです…お願いです…」

けんちゃんは、てつろうに変わって政子にチャンスをくださいとコンガンした。

政子は、投げやりな声で『分かりました。』と答えた。

けんちゃんは、立ち上がって土間から出てゆこうとしたが、政子が待ってと呼びとめた。

「待って…」

政子は、サイフの中から2万円を出してけんちゃんに渡した。

「えっ?かまいまへんか?」
「けんちゃんにご足労かけたけん、礼金よ。」
「おおきに、ほな、これで失礼します。」

けんちゃんは、政子から礼金を受け取ったあとたつろうさんの実家を出て再び旅に出た。

けんちゃんは、てつろうを実家へ帰したけんめでたしめでたしと思ってはるけど、ホンマにこれでいいのであろうか?
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