ONLY YOU~過ちの授かり婚~
婚約解消のショックで運ばれてくる料理を口にしても、味がしなくなり、喉が通らなくなった。
これが現実だとは思いたくなく、夢であった欲しいと心の中で強く思った。
でも、これが現実。

徹さんの奢りで、レストランを出た。

「乃彩、ゴメンな。お前の力になれなくて」

「いいのよ。徹さん、隠していた私が悪いの」

徹さんは腰を折りて、真摯に謝った。
最後まで、そんな風に優しくされると恨み言の一つも言えなくなる。

「元気でな。乃彩」

久しぶりのデートで別れるなんて…

「徹さんこそ元気で」

彼は背中を向け、雑踏の中に紛れていく。
遠ざかる靴音。

頬を掠める夜風は冷たいけど、瞳の奥は涙で熱が帯びていく。

瞳を潤ませる涙のせいで、周りの光景が雨に濡れたように見えた。
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