呪って愛して
 僕は、とある高校に通っている。その高校は、部活動が活発なことで有名だ。僕の通う1年2組の教室の片隅。そこには、血塗れの女の子の幽霊が、いつも立っている。

 僕の席は、一番奥の、一番後ろの席。僕の後ろには、いつも女の子の幽霊が立っている。僕はいつも、その女の子に見えているとは分からないように目を逸らす。どうやらこのクラスで見えているのは、僕だけのようだから。と、言うのも、隣のクラスには見える子がいる。僕よりも断然かっこいい、僕と同じ男の子だ。2人は仲がいい。女の子の幽霊の方から話しかけたらしい。そのころ、女の子はかたっぱしから話しかけていたらしい。僕は、放課後時々2人が話しているのを見かける。隣のクラスの男の子は、みえない何かと話している、と、不気味がられていた。が、それも一時期の話だ。不気味なだけの、ただの噂よりも、彼の顔と性格が勝ったらしい。男の僕が言うのも何だが、彼はかなりのイケメンだ。それに、性格も優しい。
 そんな彼が、昨日、死んだ。交通事故だった。噂では、彼が話していた誰かに呪われたのだと言う。けれど、きっとそんなことはない。だって、2人はいつも楽しそうに話していたから。実際のところ、どうなのだろう。
そんなことない、とは思うが、彼女が僕たちでは到底理解できない何かであることは確かだ。……もし、彼女に害がないのなら。話しかけてみたいと思った。
 僕は下を向いたまま後ろを振り返った。あと、少し、ほんの少しの勇気さえあれば。目の前に、彼女がいるのに。
「どうしたの。」
高い女の子の声がする。僕は驚いて顔を上げた。
「どうしたの。」
声を発してしているのは、幽霊の、彼女だった。彼女は心配するような表情で僕を見つめていた。
「あ、あのっ。」
勇気を振り絞って声を出す。
「うん、なあに。」
彼女は僕に優しくそう返事してくれた。彼女の声は心地よくて、安心する。
「あの、噂があって、それが本当か知りたくて…。」



 風が吹き込んでいるのに、彼女の髪はゆれない。
「……そう、そんな噂になっているの。」
そう言う彼女の表情は、読めない。何事もないかのように、まるで傷ついていないかのように。
「本当よ、その噂。」
「……え?」
本当だとは、思わなかった。彼女が本当だと言うからには本当なのだろうが、信じられない。あんなに仲良く話していたのに。
「……愛して、いたから。」
そんな僕の疑問を読み取ったかのように、彼女はそう答えた。
「愛して、いたのよ。死んだら、私と同じ世界に来てくれると思って。」
彼女は寂しそうにそう言った。
「でも、彼は来なかった。」
悲しそうで、そして切ない表情をしている彼女。その顔は、美しかった。
僕は恋をしたことがない。だから、この気持ちが恋なのかは分からない。けれど、これだけは言える。
「僕を、呪ってくれませんか?」
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