君は麦わら帽子が似合わない。
君は麦わら帽子が似合わない。
夏。自転車、青い空、白い雲、ロゴTシャツ、革紐のサンダル。ポッキンアイスに、コンビニのアメリカンドッグ。日焼け止めの匂い。ビニールバッグの感触。そして、麦わら帽子。

私の好きなもの。そして、司くんには似合わないものだ。

「それで、君は僕に似合わないものを俺の前に並べてどうしようっての」
「それはもちろん、」
「着ないよ。塗らないし、履かないし、乗らないし、被らない」
「どうして!」

burnと書かれた白いTシャツをビニールバッグから取り出してみたものの、すげなく断られて肩を落とした。そんな私を見て、彼は嫌そうな顔をする。

見たことのない夏を見たかった。見たことのない顔。見たことのない景色。感じたことない気持ち。触れたことのない温度。これまでの夏より、これからの夏より、最高の夏にしたい。私がこの夏に望むものは、そんなものだ。
クラスのはぐれもの一匹狼である若松司が、シャツを着て、炎天下の中、私を乗せて自転車を漕いで、コンビニで買い食いをして、額に汗を掻きながら夏を満喫する。私が欲することは、まさにそれだ。

「どうしてもだよ。むしろどうしてそんなことしたいの」
「どうしてもだよ!一緒にバーンと盛り上がろう!」
「すでにburnしてるじゃない、君の頭。はい、おわり」

どこまでも冷めた司くんは、夏なんていうものは自分とは無関係だというふうに涼しげな顔をしている。たしかに司くんの部屋は冷房が隅々まで効いていて、自転車で必死に漕いできた私の汗も一瞬で引いた。キャミソールの内側まで汗でべっとりと張り付いていた私とは、まるで正反対だ。なんだか、虚しい。
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