仮面夫婦は今夜も溺愛を刻み合う~御曹司は新妻への欲情を抑えない~
 紗枝さんはあのとき、ありがとうと笑っただけだった。

 作られた笑みには、俺に見せられない感情が隠されていたように思える。

(いつ返事が来るかな。……それを聞いたらときにこのやり取りも終わると思うと寂しいけど)

 スマホをデスクに置くと、ちょうどいいタイミングで渡辺が部屋に入ってくる。

「そろそろお時間ですよ」

「うん、わかってる」

 有能な秘書の言葉に頷きながら、書類を手に立ち上がった。


 その夜、帰宅した俺は紗枝さんから渡されたものを見て戸惑っていた。

「この間のお礼にと思って……」

「あ……ああ、うん。ありがとう」

 それは革製のキーケースだった。

 今日でなければ深く考えずに喜んでいただろう。

 けれど、よりによって今日である。

(……おかしくないか?)
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