仮面夫婦は今夜も溺愛を刻み合う~御曹司は新妻への欲情を抑えない~
 鏡がなければ、自分がどんな顔をしているか確認できない。

 ベッドを飛び出して鏡を見に行くのもなしではなかったけれど、もう私は和孝さんの瞳に囚われていた。

(す……好き……)

 頭がぼうっとしている。突然縮まった距離のせいでおかしくなったのかもしれない。

「もっと紗枝さんのそういう顔を見たいな。ベッドの上以外でも」

 ひい、とひきつった声を出さずに済んだのは、これまであれこれと我慢してきた経験のおかげに違いない。

「そんなことを言われても……私、自分がどんな顔をしているかわからないよ」

 ふ、とまた和孝さんが微笑んだ。

 頭がくらくらする。

「かわいい顔をしてる」

 至近距離で囁かれた声は、私の中で張り詰めていた糸を簡単に断ち切ってしまった。

 すっと自分の中からなにかが抜け出て、今度こそ意識が飛ぶ。

 半ば冗談で気絶しそうだと思っていたのに、本当にそうなってしまうなんて思ってもいなかった。
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