好きじゃない
私は駅構内に続くエスカレーターに乗った。

暑い。
これから先もっと暑くなるなんて許せない。
けど夏最高。
いろいろな矛盾した感情たちがグルグルする。

ふと何か固いものが太ももに当たった。
最初は気のせいかと思ったけど、さりげなく足元を見る。

そこにはスマホが差し出される形で不自然にこっちを見ていた。

ゾッとしながらも、背後にいる手の先をゆっくりと追う。

私の後ろにいる男の顔を見た時に、衝撃のあまり喉が詰まった。
伸びた前髪。
特徴のある八重歯。
細い眉。

その男はニヤリと笑った後、サッと横にそれエスカレーターを駆け上がっていく。

ふざけんな。

冬に別れた束縛男だった。

でも信じられないほど足が動かない。
声も出ない。

ふざけんな。

震える足で自分を支えてるのがやっとだった。

もしこんなことがあったら、私だったら絶対に腕捕まえて駅員に突き出す自信があったのに。

ふざけんな。

いつからついてきてた?
気付かなかった。

ものすごくどうしようもないほどの絶望感だった。
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