好きじゃない
ベニヤ板とブロックに座る男の子と女の子は、「THIS IS YOU&ME」と描かれてる男の子と女の子はーーー

足元にすごく綺麗な川が流れてる。
すごくすごく綺麗な藍色。

男の子は女の子の袖を引っ張ってる。

まるであの日の、夏休み入る前の、あのキスの前の蓮と私だ。

「BLACK JACK」と題された絵に目を向ける。

さっき気付いた。

月の光を唯一反射した、透明の線。

ダラダラと垂れてるところも多いけど、線をなぞると大きなキャンバスに浮かび上がる顔。

「なんでブラックジャックの絵なのにサザエさん描いてんの」

私が言うと蓮が笑う。

「バレたかー」

蓮がしゃがみ込む。

「まあ、そういうことなんだろうな」

真っ暗な美術室。

「ねえ、蓮。絵を描いてる蓮、すごくかっこよかったよ」

蓮が私を見る。
少しの沈黙。
そしてしっかりと私に聞こえるトーンで言った。

「カナにそう言ってもらえたなら、満足ですよ」

どういうこと。

私は蓮の方に歩み寄る。
ストンと真向かいに腰を落とす。

久しぶりの距離。

蓮が私の手を、指先を拾いながらうなだれるように落ち込む。

今日はきっとキスはしない。
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