月に魔法をかけられて
「OKでーす。ではこれからリハ始めまーす」

スタッフがそれに答え、それぞれ定位置につき始める。

モデルが来てないのにリハーサルってどういうことだ……?

さっき、うちの社員って言ってたけど、
社員で先にリハーサルをするってことか……?

俺はスタジオの様子を窺いながら、撮影が行われるウッドテイストのカフェセットに視線を移した。

そこには瞳子とモデルのHAYATO、そして白いニットのワンピースを着た背の高い女性が話をしていた。

あんなモデルみたいな社員がいたのか……。
瞳子、どこから連れてきたんだよ……。

相変わらずフットワークの軽い瞳子に感心しながらも、リハだけでも先に始まればCMのイメージも掴みやすいため、俺はその場で静観しながら見守っていた。

すると、隣にいた塩野部長が妙なことを言い出した。

「あれは……、もしかして山内さんかな……。きっとそうですよね?」

「えっ?」

俺はびっくりして塩野部長の顔を見たあと、再び白いニットのワンピースの女性に視線を向けた。

「やっぱりそうだ。山内さんですね。吉川チーフもなかなかいい代役を見つけましたね。本当にいつも思いますが、彼女のこういうところはさすがですよね」

塩野部長は瞳子の機転に感嘆するように頷いている。

隣で感嘆している塩野部長とは対照的に、俺は彼の言っていることが全く理解できなかった。

いやいや嘘だろ……。
あれがさっき資料を持ってきた秘書だと……?
別人じゃないのか……?
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