月に魔法をかけられて
「はーい。では絵奈さんが来られるまで先にリハーサルを始めさせていただきます。絵奈さんの代わりはうちの社員が担当させていただきます。スタッフのみなさん、すみませんがよろしくお願いいたします」

「ではこれからリハ始めまーす」

スタッフがそれに答え、それぞれ定位置につき始める。

モデルが来てないのにリハーサルってどういうことだ?
そういえばうちの社員が担当するって言ってたけど、社員で先にリハーサルをするってことなのか?

俺はスタジオの様子を窺いながら、撮影が行われるカフェセットに視線を移した。
そこには瞳子とモデルのHAYATO、そして白いニットのワンピースを着た背の高い女性が話をしていた。

あんなモデルみたいな社員がいたのか。
瞳子、どこから連れてきたんだよ。

相変わらずフットワークの軽い瞳子に感心しながらも、リハだけでも先に始まればCMのイメージも掴みやすいため、俺はその場で静観しながら見守っていた。

すると隣にいた塩野部長が妙なことを言い出した。

「あれはもしかして山内さんかな。きっとそうですよね?」

「えっ?」

俺は驚いて塩野部長の顔を見たあと、再び白いニットのワンピースの女性に視線を向けた。

「やっぱりそうだ。山内さんですね。吉川チーフもなかなかいい代役を見つけましたね。本当にいつも思いますが、彼女のこういうところはさすがですよね」

塩野部長は瞳子の機転に感嘆するように頷いている。
隣で感嘆している塩野部長とは対照的に、俺は彼の言っていることが全く理解できなかった。

いや、嘘だろ。
あれがさっき資料を持ってきた秘書だと?
別人じゃないのか?
< 102 / 347 >

この作品をシェア

pagetop