月に魔法をかけられて
「この茄子も美味しいじゃん。これなんていう料理? 俺、この味好きだな」

「ありがとうございます。茄子の南蛮漬けです。簡単だし、揚げると茄子が柔らかくなるし、私も好きなんです」

「茄子の南蛮漬けか。こういうのって外ではほとんど食べないし、コンビニにも売ってないもんな。ほんとに旨いわ」

本当にこの南蛮漬けが気に入ったのか、副社長はパクパクと口に運んでいる。

「この卵焼き、ネギが入ってるんだな。それで普通の卵焼きよりまろやかに感じるのかな?」

副社長が首を傾げながら「んっ?」と考えている。

「あっ、もしかしたらマヨネーズを入れてるからまろやかに感じるのかも……。カロリー考えたら怖いんですけど、昔から母がこうやって作ってくれてたので、私の小さい時からの卵焼きの味なんです」

「卵焼きにマヨネーズを入れてんだ。だからまろやかなのか。美月のお母さんの味なんだな。この卵焼きも旨いわ」

副社長がたくさん食べてくれるのが嬉しくて、私はついその食べっぷりをじっと見つめていた。

「なあ美月、さっきから俺ばっかり食べてるんだけど。美月は食べないのか?」

副社長が急に箸を止めて私を見る。

「あっ、はい。私も食べます……。なんか、こんな風に自分の作ったものを目の前でたくさん食べてくれる人がいるってすごくうれしくて……。つい見ちゃいました」

私は感謝するように笑顔を向けると、お味噌汁を手に取り、口につけた。
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