月に魔法をかけられて
『待った?』

白いふんわりとしたニットのワンピースを着た私が、緊張した表情でうつむきながら椅子に座る。

声は私の声ではなく、誰か女性の声優さんの声なのか、アフレコで入っている。

『ううん。今来たとこ』

私を見つめているようにHAYATOさんの柔らかい笑顔のアップが映し出される。

そして、パールピンクのメイクをした私の瞳、頬、唇がアップにされ、再び私の恥ずかしそうな顔が映ると、

『あなたに可愛いと思われたくて……』

とはにかむように囁く声優さんの心の声が流れた。

最後に、
~愛されカラー~
~恋するピンク~
~輝く艶のグラデーション~
~ルナ・ボーテ~

と男性のナレーションが入ると、そこで映像が止まった。

うっ、うそ……。どういうこと?
あの時のリハを撮ってたってこと?
と、瞳子さん……。


武田絵奈のバージョンはHAYATOさん目線、いわゆる男性がどう思うかを表現したCMだったけれど、私が映っているCMは女性目線で、私が男性にどう思われたいかを表現したCMへと変わっていた。

机に両肘をつき、両手で顔を覆う。

驚きと衝撃で頭の中が真っ白になった。

瞳子さんに言ったところで、あゆみちゃんの話が本当でコスメの売れ行きがいいのなら、すぐにはWEBのCMを削除したりはしてくれないだろう。

あれだけしっかりとメイクをしているから、私とは気づかれないとは思うけれど、見る人が見たらやっぱり分かるはずだ。

私は頭を抱えながら大きな溜息を吐いた。
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