月に魔法をかけられて
大きな男のようなシルエットがスマホを見ながら、真っ直ぐにこっちに向かって走ってくる。

(えっ? さっきの男?)

見つからないように身を縮める。

私は切り裂かれたキャミソールとブラウスをギュッと握った。

段々と足音が近づいてくる。

ガサッ──。

隠れていたツツジの木をかき分けるように男が私の目の前に立った。

「美月!」

名前を呼ばれた瞬間、

「いっ……、嫌ぁー、こっ……、こないでー。やめてー」

私は誰だか分からない男に無我夢中で抵抗した。

「美月、俺だ。美月!」

「いやっ……、やめてー……。お願いー、こっ……、こないでー」

涙をボロボロと流しながら、必死で胸元を隠す。

「美月、俺だ。安心しろ。もう大丈夫だから」

私の姿を見た男が自分の着ていた服を脱ぎ、私をクルリと包んだ。

ふわっととても大好きな香りが漂う。

(…………、副……社長……?)

そう感じた瞬間、そのままグイッと引き寄せられる。

「美月、良かった。ほんとに良かった……。ひとりで怖かったよな……。もう大丈夫。もう大丈夫だから。俺がお前を守ってやるから………」

私は抱きしめられたまま、いつの間にか気を失っていた。
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