月に魔法をかけられて
大きな男性のようなシルエットがスマホを見ながら、真っ直ぐにこっちに向かって走ってくる。

えっ? さっきの男?

見つからないように身を縮める。
私は切り裂かれたキャミソールとブラウスをギュッと握った。

段々と足音が近づいてくる。

ガサッ──。

隠れていたツツジの木をかきわけるように、誰かが私の目の前に立った。

「美月!」

名前を呼ばれた瞬間、私は誰だかわからない男性に無我夢中で抵抗した。

「いっ……嫌ぁぁぁ。こっ……こないで。やめてぇぇ」

「美月、俺だ。美月!」

「いやぁっ……やめてぇぇ……。お願いだからこないでぇぇぇ」

涙をぼろぼろと流しながら必死で胸元を隠す。

「美月、俺だ。安心しろ。もう大丈夫だから」

私の姿を見た男性が自分の着ていた服を脱ぎ、私をくるりと包んだ。ふわっととても大好きな香りが漂う。

副……社長……?

そう感じた瞬間、そのままグイッと引き寄せられる。

「美月、良かった。ほんとに良かった……。ひとりで怖かったよな……。もう大丈夫。もう大丈夫だから。俺がお前を守ってやるから………」

私は抱きしめられたまま、いつの間にか気を失っていた。
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