月に魔法をかけられて
笑い声で賑やかだったリビングが急に静かになり、副社長と2人きりになる。

さっきまで紅組白組と競い合っていたテレビからは、ゴーンと除夜の鐘の音が聞こえ始めた。

「まったく……。ほんとに勝手だよな。あいつのせいで、どれだけ俺は被害を被っているか……」

副社長がぼそっと呟く。

その呟きに私はクスッと笑ってしまった。

「俺、なんかおかしいこと言った?」

「ふふっ、瞳子さんと副社長ってほんとに姉弟なんだなって……」

「笑いごとじゃねーよ。昔からいつもあいつに振り回されてたまったもんじゃない」

不満をぶつけるように、ソファーの上のクッションをギュッと掴む。

「やっぱり副社長でも、お姉さんには敵わないんですね……」

副社長のもどかしそうな表情に、また笑ってしまう。

「なあ美月、さっきから副社長って言ってるよな? 啓太に言われてなかったっけ?」

「あっ……。す、すみません……」

私が慌てて謝ると、副社長が仕方なさそうに目を細めて笑みを浮かべた。

「どうする? これから初詣行く?」

「そ、そうですね……。行ってないと明日の朝瞳子さんに『どうして行かなかったの?』って聞かれそうだし……」

「だよな……。あいつ、うるせーもんな。じゃあ行くか?」

「はい。じゃあ私、部屋から鞄とコートを取ってきますね」

私は部屋に戻ってコートと鞄を取ると、玄関へと向かった。
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