月に魔法をかけられて
「美月ちゃん、ほんとごめんね……。はぁー、どこであんなことを覚えてくるのか……」

申し訳なさそうに私に謝る瞳子さん。

「瞳子さん、気にしないでください。こんな小さな男の子に『すき』って言われるなんて思ってなかったから、私もうれしいです」

瞳子さんが気にしないように口角をあげて笑顔を作ってみる。

「ありがとね。ほんと、キスが唇じゃなくてよかったわ……。唇だったら私……相当恨まれてただろうし……」

はぁーと再び大きな溜息をつく。

「瞳子さん……そんな恨みませんよ。なんてったって小さな啓太くんだし……。逆に私の方が啓太くんを好きな女の子たちに恨まれちゃうかも……」

私の言葉に直人さんはプッと吹き出したかと思うと笑いを堪えるように口元を隠し、瞳子さんは困ったように項垂れ、副社長はなぜか、とっても、かなり、相当不機嫌そうだ。

「いやいや、ほんとに良かった。唇じゃなくて……。もうね、小さくてもこういうところは男の子なのよね。全く……。まあこれもいい刺激かもしれないわ……。そうね。刺激……いい刺激になるかも……」

瞳子さんは何やら自分自身に言い聞かせて納得させているようだ。そして気持ちを切り替えるように「今年もいい年になるように早くお雑煮食べちゃいましょう」と明るく言い放つと、自分の椅子に座った。
< 246 / 347 >

この作品をシェア

pagetop