月に魔法をかけられて
「あー、なんかめちゃくちゃ美味そうな匂いだな」

副社長がパソコンを閉じながら、私の方へ視線を向ける。

「もうすぐ夜ごはんができますけど、もう少しあとの方がいいですか?」

時計を確認するとまだ17時30分を過ぎたところだった。

「えっ? もしかして夜ごはん作ってくれたの? 下準備だけしてるのかと思ってた」

「ついでだったので作っちゃいました。もしかして、外食の方が良かったですか?」

「そんなことあるわけないだろ。美月のごはんがいいに決まってるよ。もう食べれるの?」

「はい。もうすぐごはんが炊き上がるので、そしたら大丈夫です」

そう告げた途端、炊飯器から炊き上がりの音が鳴り始めた。

「あっ、今炊き上がったみたいです。もう食べられますか?」

「うん。食べる」


私はお皿に料理を盛ると、ダイニングテーブルへセットし始めた。

全て運び終えて、テーブルの上に料理が並ぶ。

その料理を目にした途端、副社長がうれしそうな笑顔を向けた。

「美月、すごいじゃん……。こんなに作ってくれたの? 家で鯖の味噌煮が食べれるなんて思ってなかった……」

「お口に合うかわからないけど……、どうぞ……、召し上がってください……」

副社長は、いつものように「いただきます」と手を合わせると、鯖の味噌煮に箸を入れた。

「わっ、旨っ。美月、旨い。ほんとに旨い」

驚いたように目を見開きながら私を見る。

その反応にほっとした私は、うれしくて自然と笑みが零れた。
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