月に魔法をかけられて
副社長の言っていることはすごく良くわかる。

すごく良くわかるけど……。

でもそれって、警告と言いながら相当危険な賭けじゃなかったの?

会社だってどれだけ損害を被るかわからないのに……。

今回はたまたま武田絵奈の事務所が副社長の思い通りに動いてくれたからよかったけど、そんな危険を冒してまで制裁を与えるなんて……。

これって、私のためにしてくれたことだよね?

私、こんな風に副社長に負担をかけたくないよ……。


私の心配そうな顔を見て、副社長が安心しろと言わんばかりに、口元で孤を描いた。

「なあ美月、綺麗事かもしれないけどひとりの社員を守れなくて社員全員を守れると思うか? それは経営者として失格だと思わないか? 今回は少し俺の私情が入っているにしても、社員が酷いことをされているのに会社のために我慢してもらうなんてやっぱり間違ってると思うんだ。今回は武田絵奈が関与していたという確実な証拠がないからこれが精一杯だったけど、やっぱり会社が守ってやらなきゃダメだろ……?」

「壮真さん……」


毎日近くにいて、副社長として真剣に仕事をする姿も、陰で相当努力していることも見てきているはずなのに、私は今まで何を見て一緒に仕事をしてきたんだろう。

改めてこの人は会社を背負って立つ責任者だっだんだと感じる。


ふと、昔聡さんが言っていた言葉が浮かんだ。


『俺はね、壮真は親の力を借りなくても、壮真だけの力でトップになれる思ってる。根は真面目で本当にいいヤツなんだ……』



本当にそうだ。

社長の息子じゃなくても、この人は自分の力で努力してトップになる人だ。

真っ直ぐで、曲がったことが嫌いで、
自分のことより社員のことを考えて──。

もしかしたら会社が大変なことになるかもしれないというのに。

自分の立場だって危うくなるかもしれないのに。

それを覚悟のうえで、こうして自分ができる精一杯のことをしてくれるのだ。
< 305 / 347 >

この作品をシェア

pagetop