月に魔法をかけられて
悲しそうな彩矢にどう声をかけたらいいのかわからず、目の前にあったグラスを持って口をつける。するとちょうどタイミングよく料理が運ばれてきた。

「とりあえずお腹すいたし食べよっか」

私が彩矢に笑顔を向けると、彩矢も頷きながら微笑んだ。

「ねぇ、美月はどうだったの? やっぱりウェスティンのスパって最高に良かった?」

彩矢の言葉に私は自嘲気味に笑うと、金曜日の夜の出来事を彩矢に説明した。

「えっ? それで藤沢さんは結局何も言ってきてないの?」

話の内容に目を丸くしながら彩矢が尋ねる。

「うん。だから怒ってるのかどうなのかわからなくて。自分から聞くのも怖いし、仕事するにもいつも以上に緊張しちゃうんだよね……」

「うわぁ、そんな展開になっていたとは。もうびっくり過ぎて言葉にならない……」

「だよね……」

今度は私が視線を下に落とす。

「美月、今日は飲も! 私も連絡がないってことは脈がないってことだし、もう忘れる! 美月も金曜日のことなんか忘れて、また今まで通りに仕事しよ!」

「そうだね。飲もっか!」

そう言って2人で飲み物メニューを眺めていた時、彩矢のスマホにショートメッセージの通知が表示され、スマホをタップした彩矢が固まってしまった。
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