月に魔法をかけられて
俺はそのことが気になりながらも、夕方からの村上ホールディングスとのアポイントに出かけた。

村上社長は都内だけでなく全国の主要都市にコスメティックショップを展開するやり手の社長だ。

最近ではコスメショップにカフェを併設させたコスカフェを都内にオープンさせ、オーガニック野菜とフルーツのみを使用したドリンクやスイーツが若い女性を中心に人気を得ている。

年齢は親父と同世代くらいで、表向きは柔和な性格だが、なかなか癖のある人物だ。

味方にするにはいいが、敵にすると何かと支障が生じる。

どうせ俺のことは三代目の若造としてしか見てないだろうが、だからと言ってこういうアポイントを疎かにしておくと、後で何が起こるかわからない。

毎年のこととは言え、礼儀として年末のクリスマス商戦のお願いをきちんとしておかなければ……。

俺は大きく息を吐いて気を引き締めると、村上ホールディングスの受付へと向かった。

受付で村上社長とのアポイントの約束を伝えると、受付の女性が俺に媚を売るような笑顔を向けながら応接室に案内してくれた。

毎回のことながら、社長に面会にきた相手に対してよく自分をアピールできるものだと感心してしまう。

こんな風に媚を売れば、俺が声をかけるとでも思っているのだろうか……。

そんな目で見つめられも全く興味はないが、案内をしてくれた女性にとりあえず「ありがとう」と笑顔を向けると、彼女は頬を染めながら戻っていった。
< 61 / 347 >

この作品をシェア

pagetop