怪事件捜査クラブ~十六人谷の伝説~
「うん。多分だけど、わたしが視る幽霊って、ある程度意志っていうか、思念がある者なんだと思う。死んだ直後って自分が死んだか分かってない人もいると思うし、誰かに何かを伝えたいとか、遣り残したこととか、恨みとか、そういうのが出てくるのって、多分亡くなった直後じゃないと思う。昔、ずっと自分が死んだことに気づかずに、自分が死ぬ瞬間の行動を繰り返してる霊を視たこともあったけど、それだっていつも使ってた電車のホームでその人が亡くなったって聞いてからしばらくしてから視始めたし」
「そうなんだ……」

 感慨深げに要は顎を引いた。

「でも、亡くなった直後の霊を視る人はいると思うよ。わたしがそうじゃないってだけで。それに、誰かにとり憑いてる霊でも背後にいたりする霊は視たことあるけど、誰かに一体化してるような霊は視たことないんだ」
「いわゆる憑依ってやつ?」
「うん。そう。留学中にわたしとは逆の人がいたけど、その人は霊に憑依された人は視えるけど、わたしみたいに外側からとり憑いてる感じの霊は視えないんだって」
「へえ……」
「正確には視るっていうよりは、感じるみたい。黒いオーラみたいなものが視えたり、顔つきが全然違うんだって。その人は死期も分かるみたいで、あまり人と会いたくないみたい」
「それは大変だね」

 要が同情の眼差しを送ると、由希は微苦笑した。そして、「それより、要ちゃん。これ見て」と、由希はカメラを巻き戻し始めた。再生ボタンを押して、要に見せると画面を指差した。

「ここに、男の人がいるの」

 指を指した場所は、笹崎と田中の間だった。

「マジで? どんなやつ?」
「中年男性。多分、四十歳くらいかな。薄汚れた作業着を着てる。この人、何か言ってるの」
「なんて?」

 由希はかぶりを振った。

「分からない。聞き取れないけど、怒ってる」
「大島さんに?」
「ううん。誰に対してかは分からない。でも、この人――」

 途中で由希は言葉を止めた。

「気分悪かったら、良いよ。無理しないで」
「ううん。違うの」

 強張った顔で由希は告げた。

「舌がないの」




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