怪事件捜査クラブ~十六人谷の伝説~
 要は勝手口のドアを開ける。外には、人はおろか動物の気配すら感じられない。センサーの明かりが点いた場所以外はかなり暗く、何があるのかも分からないほどだ。要はそのままドアを閉めた。いつもの要だったなら、好奇心に負けて外に出て、何故明かりが点いたのかを確かめるために外をある程度見て回っただろう。だが、今回は何もせずに閉めた。
なんとなく、嫌な予感がした。
誰かに、やめろと言われた気がした。

「要ちゃん。田中さんの返事がないんだけど……」

 不安げに由希が後ろから声をかけた。振り返った要の顔もめずらしく、不安の色が映し出されていた。

 *

 二人はトイレの前に立った。

「田中さん。大丈夫?」

 要が声をかけるが返事がない。二人は顔を見合わせた。

「中で倒れてるんじゃないかな?」
「どうしようか。救急車も呼べないしね」

 最悪死んでるかも――。要の脳裏に不安が過ぎったが、さすがに由希の前では言えない。そんなことを口走れば、優しい心根の由希は田中を思って心底心配するだろう。

「とりあえず、ドア壊してみる?」
「どうやって?」
「斧とかあるんじゃないかなぁ。見たところリビングにある暖炉は薪がいるから。薪を割るのに多分あると思うよ」
「そっか。じゃあ、探してこよう」
「秋葉がいればこういうときに有利なんだけどなぁ。秋葉って男子並の怪力だもん」
「頼りになるよね」

 うふふっと由希が笑ったときだ。隣の部屋から洗濯機が回る音が聞こえてきた。互いに顔を合わせると、頬を引き攣らせる。手を取り合いながら、そろりと洗面所を覗いた。

「田中さん!」
「ん?」

 田中はきょとんとして振り返る。

「どうしたの?」
「どうしたのって、おいおい。こっちは散々心配したってのに!」
「え?」

 田中は更にきょとんとして首を傾げた。

 *

「あ~。ごめんごめん。トイレからはもう出てたんだよ。それで泡で手を洗おうと思ってこっちに来たんだよ。色々あったから顔も洗いたくなったし」
「洗濯物は?」
「……これは……その」

 言い辛そうにした田中の頬から若干血の気が引いた。それを見て、要は察した。

「あ~。漏らしたんだ」
「ちっ、違うよ! ちょっとついちゃっただけ! あっ」

 ニッヒッヒッと要は笑ったが、由希と田中は気まずそうに苦笑した。
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