怪事件捜査クラブ~十六人谷の伝説~
「あっ、えっと……お話しましたよね? 森には崖があって危険なんです。他にも動物が出てくるかも知れないし、ここ、山なので遭難の危険性も十分にあるんです。とにかく、夜捜索に出るのは止めてください」

 注目されることになれていないのか、田中は終始気まずそうに伏目がちだった。だが、ふと顔を上げた表情は、真剣そのものだった。

「死にたくないのであれば」

 笹崎はもぞっと口を動かした。なんとなく後ろめたい感じがしたからだ。

「分かりました……」
「とりあえず、今日はもう皆さん寝ませんか? 夜ご飯でも食べて、順次お風呂に入って頂いて」
「そうですね。田中さんの言うとおりにしましょう。猪口さんは、警察に任せましょう」
「任せようったって、肝心の連絡手段がないじゃないのよ」

 丸く治めようとしたあかねを尻目に、笹崎は嫌味ったらしい口調で独りごちたが、それには誰も触れず、田中に従ってキッチンへ向った。誰しも不安で仕方がなかったのだ。

 遅い夕食はカップ麺だった。時間も時間だし、料理はあまりしたことがなく、昼食は大島の手伝いしかしてなかったと申し訳なさそうに田中が言い訳を述べたが、誰も気にはしなかった。夕食のメニューに構う気力はなかったからだ。一番最初に食べ終えた田中が、立ち上がりながら言った。

「ゴミ出ししてきますね」
「こんな遅くに?」

尋ねた要を見据えて、

「少し離れてるけど、焼却炉があるんだよ。こんな山の中にゴミ収集車は来ないからね。夕飯を食べたら燃やすのが日課なんだ。と言っても、プラスチックは焼かないよ。燃やすのは生ゴミと燃えるゴミだけなんだけど」
「プラスチックはどうするんですか?」
「それは、溜めて、溜めて、溜めてから村のゴミ捨て場まで持って行くんだよ」
「へえ。大変ですね」

 相槌を打った要に、うんと相槌を打ち返し、

「だから、皆さんはゆっくり食べてて下さいね」

 そう言って田中は勝手口から出て行った。
 しばらくして、白み始めた空に煙が上がった。


 
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