初恋前夜
2
「あと五分です」
 僕と同じ二年生で、ふだんは会計兼音楽を担当しているメガネ女子が、正面に掛かっている時計を見上げて言った。彼女はもっぱらこういうときの司会役だ。
 放課後、僕たち演劇部員は稽古場を兼ねた部室に集合していた。
 前方の長机には、五名の審査員がパイプ椅子に掛けている。
 左端には髭を蓄えた恰幅のいい顧問。
 業界人っぽさを醸し出す五十代男性で、このひとはとにかく渋い声を出す。
 その隣には部長兼演出家を務める男子の先輩。
 このひとは世の中の一般人が演出家という職業に抱く堅物なイメージ(って偏見だよな)とは対極に位置する、物腰柔らかなひとだ。
 それから中央には副部長兼演出補佐である女子の先輩。
 逆にこちらはチャキチャキとしていて、手際よく動く。たいていの指示出しは部長ではなく副部長が行っていた。
 あとの二席には次期部長と副部長が内定している二年生男子と女子がひとりずつ。
 僕は向かって右端に座る彼女を見た。
< 21 / 96 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop