それ以外の方法を僕は知らない




克真くんは、前よりもヘッドホンをつけている時間が長くなった。

授業が終わるチャイムがなるとすぐにヘッドホンを取り出し、周りの音を完全にシャットアウトする。


まるで、知り合う前の彼を見ているようだった。




そんな様子が数日、…数週間と続いた。

流石に心配になった私は、放課後、久しぶりに彼の机へと向かった。




「…克真くん」




教室に誰もいなくなった頃、彼はいつものように窓の外を眺めていた。

彼の背後から近づいてポン、と肩を叩く。
すると彼は驚いたように肩を震わせ、ヘッドホンを首にかけた。



「…ああ、音々」

「寒いねぇ、」

「…うん」



いつからか、彼は「うざい」と言わなくなった。

話しかければ、「うん」とか「そうだね」とか、単語とは言え会話のキャッチボールが成り立つのが普通になった。



休み時間やお昼休みに軽く話すことはあったもののこうやって1対1で会話をするのは、あの日以来のような気がする。


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