それ以外の方法を僕は知らない




たくさんの意味を込めたありがとうを伝える。

先生はケラケラと笑っているけれど、そこに浮かぶ笑顔はいつもよりどこか寂しそうに見えた。

そう思いたいだけかもしれないけれど。



「先生」



俺の話を一番最初に聞いてくれたこと。
俺のために時間を割いてくれたこと。




「俺、先生のことが好きでした」


俺の気持ちに、知らないふりをしてくれていたこと。



先生と時間を共有できただけで楽しかった。
先生が、俺が学校に行く理由だった。

周りの音が聞こえなくたって、先生の声だけが聞こえればいいやって思っていた。




「…ありがとう」

「…いえ」

「でも下館くん。"だった"って、過去形なところ、ちゃっかりしてるわねぇ」

「…俺にも、大切な人ができたので」



少し変わったあいつ。

冷たくしても、軽くあしらってもめげないあいつ。

俺のいちばんの友達の、あいつ。


先生のアドバイスがなかったら、あいつと向き合いこともしなかった。

的確な突っ込みに軽く謝れば、彼女はにやにや笑いながら「がんばれよ」と言ってくれた。



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