Pride one
「たぶん、今日はさすがに持ってると……、思いたいんだけど」
 言いながら優月はパンツの左右後ろのポケットに手を突っ込み、そのあと椅子の背もたれに掛けた、ジャケットを探ってみる。

 昨日一昨日と二日連続で仕事用のスマートフォンを家に忘れてしまい、今日こそはとポケットに入れたはずだった。しかし、もはや自分の記憶に自信が持てない。

「……とりあえず出てみるね」
 結局見当たらず、優月は受話器に手を伸ばした。

「お電話代わりました、成さ――」
「ゆずー! どうし」
 鼓膜が裂けそうな声に、反射的にがちゃんと受話器を戻した。坂巻はモニターの脇から半分顔を出す。

「……あれ、切れちゃってた?」
 優月が黙り込んでいると、今度はすぐに隣接部署、顧客管理課の女性社員から声がかかった。

「成澤さん、電話いいですかー? アオナミソウさまっていう女性の方なんですけど。一番です」
 それを聞いた途端、魂ごと抜けていきそうな重い息が漏れた。優月は机に突っ伏した。

「お客さんから?」
 坂巻が首を傾げる。

「ぜんっぜん」
 優月は伏したまま腕を伸ばして受話器を取り上げ、左上の一番を押した。受話器を耳に当てるよりも先に、スピーカーから金切り声が飛んできた。

「なんで切るのよっ。それが幼馴染みに対する態度ってわけ?」
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