三月白書

「分かったわ。ちょっとゆっくり話を聞かせてもらえる?」

 そして、教室の中に誰もいないことを確認して、教室のドアを前と後ろ両方を閉めてから、親子面談の時のように机を4つ付けてテーブルのようにしてから、わたしに座るように声をかけてくれて、先生もその前に座って時間を作ってくれた。

「どうしたの、突然? 葉月さんが受験するっていうのは先生聞いていなかったけど、なにか心変わりするようなことでも見つかったの?」

 先生も驚いたと思うよ。これまでにもクラスの中では中学受験をするって公言したり、そのために塾に行っている子がいることも知っている。

 そんな、どちらかと言えば目立つ方のクラスメイトとは真逆で、クラスの中でも目立たないどころか存在感すらほとんどない……理由はいろいろあるんだけど……、わたしがいきなり受験組に加わるなんて、普通じゃ考えつくこともないと思うよ。

 でも、わたしも自分ででここ数週間考えた結果だから。今日だって、どういうタイミングで話せばいいか考えていた。


 きっと先生は忘れ物か何かを取りに戻ってきたのだと思う。時間だってもう夕方になって、連絡を入れなければ家族が心配してしまうような時刻を時計の針は指しているのだから。

 そこにわたしひとりだけがぽつんと机に座っていて、黙って外を見ていたんだもの。先生だって何かあるとは思ったとは思うけれど、それがいきなり「受験します」だもんね。

 だから、驚かせてしまったことを素直に謝ってから本題に行くことにした。
 
「まだ、間に合いますよね……。願書の締め切りまで……」
「うん。まだ十分に間に合うけれど……。葉月さんは突然どうしたの?」

 先生はわたしが突然の発言に至った理由を知りたいようだった。

 そうだよね……。だって、わたしは思いつきだけでそういうことを言えるような子じゃないって、もう3年も担当してくれている先生は分かっているだろうから……。

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