二択
「兄貴!御馳走様!」

手持ちの金が底をつきたが、知佳子の笑顔を見ると仕方なく思えてしまう。

学校からでているバスも本数は、少ない。30分に一本だ。

最寄りの駅まで、歩いて15分。

バスが出たばかりでもあり、知佳子は歩いていくことにいた。

「送ろうか?」

長谷川の言葉に、知佳子は首を横に振った。

「まだ授業があるんだろ」

「そうだけど…」

「頑張れ!学生!」

知佳子は走り出した。

「じゃあね!兄貴」

手を振りながら、離れていく知佳子を、長谷川は見送った。


それが、知佳子を見る…最後になることも知らずに。





数時間後、長谷川は校内放送で、学生課に呼び出されることになった。

こんな時も、事務的に、職員は言った。

「ご両親からです」

受話器を渡された長谷川は、携帯の電源を消していたことに気づいた。

わざわざ学校にかけてくるなんて。

長谷川は、首を傾げながら、電話に出た。

「はい…」



その後、長谷川の心臓が止まった。息もできない。


受話器の向こうから、母親の声だけが響いていた。

「そんな…馬鹿な」

それだけが、口から出た。

今聞いた事実が、信じられなかった。

受話器を耳に当てたまま、凍り付いている長谷川の逆の耳に、

警察と救急車のサイレンが聞こえていた。



自失呆然となっている長谷川の前に、初老の男が立ち尽くしていた。

「私のせいだ」

男は、わなわなと全身を震わせた。

「私が、守ったから」

男は頭を抱えながら、髪をかきむしり、そのままふらふらと漂うように、長谷川の前から、姿を消した。


「先生!」

初老の男の様子も、気になったが、

今はそれどころではない。

長谷川は、病院へと急いだ。


そこで、長谷川は変わり果てた…妹と会うことになった。
< 43 / 157 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop