二択
何の装飾もない…冷たいドアを開けると、

長谷川は部屋に入った。



四角い灰色の部屋の真ん中に、机が一つ。


その前に、男が1人いた。


長谷川は、男の前に座る前に、上着のポケットに入れていたカードを確認した。


その時、

幾多の顔が唐突に、浮かんだ。


長谷川は奥歯を噛み締めると、カードを出すのをやめた。


いや、出す必要がないかもしれないからだ。


「失礼します」

長谷川は、男の前に座った。


幾多の事件から、部屋の外には、警官が待機していた。


「三宅哲郎さんですね?」

長谷川は事務所な口調で、哲郎に三宅に話しかけた。



「…」

男は虚ろな目で、机の上を見つめていた。

気付かない哲郎に、長谷川はそれ以上何も言わなかった。

ただ静かに、哲郎の前に座ると、その様子を凝視した。

これも、大切な材料となる。



しばし観察してから、おもむろに長谷川は口を開いた。


「三宅さん」




「あっ」

三宅は声よりも、長谷川の視線に気が付いた。


顔を上げた三宅の顔が、驚きから、

泣きそうな表情に変わった。

「お、俺は…」


40歳をこえたばかりの三宅が、まるで幼児のように見えた。


老けた…幼稚園児のようだ。

その瞬間の変化で、

長谷川は、三宅の性格を知った。


だが…


それは、男なら誰でもあることだった。


子供ぽい。


しかし…。



長谷川は睨むではなく、微笑むでもなく、

限りなく自然な表情で、三宅を見ていた。


(大人などいるのか…)




フッ。



長谷川は、心の中で笑ってしまった。

今日は、変なことを考えてしまう。


子供から成長しない男など、珍しくない。

そう…

三宅は患者なのだ。


自分は冷静に、診断するだけだ。


(!?)

いつも通り診断しょうとした長谷川は…驚いてしまった。

いつのまにか、

無意識に、

内ポケットに入れてあるカードに、手を当てていたからだ。

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