救われ王子にロックオン~溺愛(お礼)はご遠慮させて頂きます~
夏の夜を彩る大玉の花火。

都心の夜景と美しい花達(花火)のコラボレーション。

それは暑い夏の癒しのひととき・・・。

このあとに、最高のモチベーションから憂鬱なものに成り下がった゛里帰り゛という予定がなければ、あやめも純粋に花火を楽しめていたはずだった。

「綺麗ですね」

「ええ、とても」

あやめは、ぼんやりと花火を眺めながら光治の呟きに答えたが、ふと視線を感じて光治の方に目を向けると、何故か光治は花火を見ずにじっとあやめを見つめていた。

「せっかくの花火ですよ?集中して見ないと勿体ない」

クスりと笑うあやめに

「僕は花火よりもあやめさんを見ていたい」

と真面目に返す光治。

゛ベタか!゛

あやめは、堅物シャイ(ニング)王子からの高速変化球に突っ込みを入れたいが怖くなってやめた。

左側から田中のキラキラとした視線をビシビシと感じていたからだ。

カシャカシャとスマホで撮影する音が聞こえるのは気のせいだと思いたい。

「手を繋いでもいいですか?」

「・・・そのくらいはいいですよ」

あやめは自分から光治の手を取って恋人繋ぎをしてあげた。

光治の頬から首にかけて一気に赤く染まっていくように見えたのは花火のせいということにしておこう。

資産家でも、裕福でもないあやめが光治にお返しできるのは精々このくらいだ。

受けた施しへ何のお礼もしないのはあやめの流儀に反する。

例え誰かに見られて噂になったとしても、どうせ恋愛に発展することは生涯ないのだ。

゛短い間だけでもこの茶番にお付き合いしてあげよう、友達として゛

そんなあやめの気持ちが光治と田中に正しく伝わっているかどうかは別。

出会ってまだ2週間足らずのあやめと光治は、縁あって、こうして手を繋ぎながら豪華絢爛に夏の夜空を彩る花火を見上げることになったのだった。

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