救われ王子にロックオン~溺愛(お礼)はご遠慮させて頂きます~
自宅に戻ると、近隣の村民が集まって来ていて賑やかな状態になっていた。

「さあ、今日は村をあげての祝宴だ。この豪勢な料理の数々は聖川社長のおごり。ワシが言うのもなんだが遠慮せずに楽しんでくれたまえ」

あやめと光治が実家に戻ると、酒を飲んでもうすっかりでき上がっている祖父・昭次郎が、村人に囲まれて陽気に開会?の挨拶を始めているところだった。

杜若家の中庭には、近くの公民館から運ばれたテーブルとパイプ椅子がところ狭しと置かれ、両サイドには屋台のような調理場が設置され賑わいを見せている。

まだ16時だというのに、さながら夜祭り様相を呈していた。

しかし、あやめには見慣れたこの風景の一部に、明らかに夜祭りと様相を異にしている部分を見つけた。

中庭の中央部分に置かれた祭壇。

島唯一の神主が神装束に着替えており、二人の巫女を従えている。

これは・・・もしや、と思ったが信じたくはない。

「あやめ、こっちに来なさい」

嫌な予感ほど当たるものだ、だが、受け入れるのには時間が足りなさすぎた。

「お父さん、これってどういう状況?」

「見ての通りだよ。これからお前と光治さんの人前結婚式が行われる。村のしきたりに従ってな」

「おーまいがー!」

まさかと思っていたことが現実になる。

この島には決して破ることはできない、とある伝説の掟があった。

゛島の岬の最南端でキスをしたカップルは永遠に結ばれる゛

それは、裏を返せば絶対に結ばれなければならないことを意味する。

だから、本気で結婚したいと思っているカップル以外は迂闊に岬でキスしてはならないのだ。

なぜなら、そこには島を災いから守る竜神さまが祀られており、島の平和のために重要な役割を果たしていると言われているから・・・。

しかし、永遠の愛にも条件はある。

2人の永遠の誓いを見届ける第3者の存在が必要なのだ。

2人があの時間に、あの岬でキスに耽っていた?時、あやめは誰かの気配を感じなかった。

だからこそ安心していたのだが、

「お二人のようすはこのドローンを使ってこちらの会場に生中継させていただいておりました。ここにいる全員が証人です」

「ぬおー」

言葉にならない雄叫びをあげたあやめの顔は真っ赤だ。

あれは、不意打ちとはいえ、暗黙の了解で行われた二人の初めてのチュー。

しかも、思いのほか気持ち良くて何度も繰り返し、心地よさに耽ってしまった親密なベロチュー。

それを祖父母やお互いの父親、親戚さらに隣人までに見られてしまうという大失態。

あやめは、恥ずかしさと情けなさで思わず自宅の中に逃げ込んでしまった。

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