救われ王子にロックオン~溺愛(お礼)はご遠慮させて頂きます~
その時の圭吾は中学生の弟とキャッチボールをしていた。

通りがかったあやめに気を取られた圭吾は、中学生の弟が投げた高速ボールに気づくのが遅れ、その勢いを左胸で受け止めてしまった。

「あっ!兄ちゃん、危ない」

よそ見をした圭吾に、すかさず警告を入れようとした弟だったが間に合うことはなかった。

思いもかけない打撃をモロに受けとめた圭吾はその場に倒れ込んでいく。

「圭吾くん!」

慌てて駆け寄ったあやめの声かけにも圭吾の反応はない。

「新吾くん、診療所にいって卓次郎先生呼んできて。それとAEDも必ず持ってきてね。大丈夫だから」

まだまだ新米医師のあやめだったが、デッドボールなどによる強い心臓への刺激が引き起こす致死的な不整脈の話を聞いたことがあった。

圭吾は今、意識も呼吸も脈もないが、原因が明らかな不整脈なら蘇生のチャンスはある。

身体に触れればその人の病状がわかる不思議なあやめの能力も、適切な処置を施せば圭吾は大丈夫だと後押しをしてくれていた。

だからこそ呆然と立ち尽くす圭吾の弟・新吾に、あやめは冷静に指示を出せたのだ。

新吾を見送り、再度、圭吾が心肺停止状態であることを確認したあやめは、すかさず胸骨圧迫を開始した。

その後は、数分で駆けつけた卓次郎と診療所の看護師との見事な連携プレーにより、圭吾は一回の除細動で無事に意識を取り戻すことができた。

後でAEDの解析を見たところ、圭吾の心肺停止の原因はやはり心室細動だった。

意識を取り戻した圭吾は後遺症もなく元気にリカバリーしたが、念のために精密検査を受ける必要がありドクターヘリで本土の病院に搬送された。

このときの経験をきっかけに、圭吾は医師を目指すようになったのである。
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