救われ王子にロックオン~溺愛(お礼)はご遠慮させて頂きます~
「つまり、私はもう用なし、だからどこぞの御曹司に押し付けて厄介払いしたい、というわけですね」

普段は決して卑屈なことは言わないあやめなのだが、自分の思いが父親に蔑ろにされたようで、嫌みの一つも言わずにはいられなかった。

「それは違う。私はあやめにこれ以上無理も我慢もさせたくないんだよ。自分の夢に生きていいんだ」

「無理なんかしていません。全部、私自身がやりたくてやってきたことです」

父から発せられた意外な言葉に、あやめはハッとなって身体を起こした。

「ずっと言おう言おうと思っていたのだか、楓の死はあやめのせいではない。故意の殺人は別として、人の死は゛誰かのせい゛によるものではないことぐらい医師になったあやめにはわかっているだろう?」

父が楓の死についてあやめと語るのはこれが初めてのことだった。

あやめが楓の死の原因を知ったのだって、偶然が重なったからに過ぎない。

夏祭りのある日、小学生のあやめが聞いているとは知らずに、近所のおばさんたちは思い出話に花を咲かせていた。

母の死について深く疑問を持っていなかった幼いあやめは、その日、母親があやめを出産したことで亡くなってしまったことを知る。

呆然と立ち尽くすあやめに気付いたおばさんたちは慌てて訳のわからないフォローを入れていたように思う。

しかし、あやめが母の死因について人づてに知ってしまったと気付いた後でも、頑なに楓の死の話題に触れようとはしない卓次郎と祖父母の存在があった。

だからこそ、心の底ではみんな、あやめを恨みながらも表面を取り繕っているにだけに違いない、とあやめは考えた。

゛これからは母の分も償いながら生きていこう゛

そう、心に誓ったのだ。
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