救われ王子にロックオン~溺愛(お礼)はご遠慮させて頂きます~
「初期なら抗生物質で炎症をちらすという保存的な方法も選択できたかもしれませんが、聖川さんの場合、膿瘍プラスそれが破れて腹膜炎を起こしている状態です。傷が残りにくい腹腔鏡下の手術もあるのですが重症例にはおすすめしません。全身麻酔下での開腹手術が望ましいでしょう」

「その場合、どのくらいで退院できますか?」

こうなってくると、光治が一番気がかりなのはやはり仕事復帰だ。

「うまく虫垂が切除できた場合ですが、術後2~4日で水分を開始して、段階的に食事の形態を上げていき1週間~10日で退院といったところでしょうか」

最低でも7日・・・。

予想以上の日数にため息が出る。

だが、更なる不幸話が光治にダメージを与えた。

「ですが、開腹してみて炎症が広範囲・回盲部に及んでいることがわかった場合は、お腹の外に管を出してドレナージしつつお腹を一旦閉じ、抗生物質で炎症を抑えてから改めて回盲切除という流れになります。よって入院期間はさらに延びます」

思わぬデッドボールに

「そんな手術はお断りします」

と、光治は思わず声を出していた。

「バカ息子の言うことは相手にしなくていい。あやめ先生、その流れでよろしくお願いします」

「必要ならば私よりも経験豊富な医師からのセカンド・オピニオンを聞くことも可能ですが?」

「いや、結構だ。あやめ先生にお任せするよ」

カキツバタ先生という呼び方は言いにくいのか、博志がいつの間にか、ファーストネーム呼びの゛あやめ先生゛と話しかけている。

その事に突っ込みを入れたい光治だったが、社長自ら手術許可と休養を言い渡されてはこれ以上口を挟むことも、反論することも許されないと悟った。

博志は信用できない人物には容赦ない。

こう見えて、゛ニューベリーヒルズ゛という日本でも最高にラグジュアリーなオフィスビルの総括を任された敏腕社長。

そしてベリーヒルズビレッジ全体を取り仕切る聖川ホールディングスの会長職も兼ねる経済界のドンでもあるのだ。

その博志が、あやめから受けたインフォームドコンセントの内容と、パンフレットから確認できるあやめ個人の簡単な経歴を一見しただけで、大事な跡取り息子の命をあずけようと決心したのだ。

それだけあやめを信用しているということ。

光治は、まだ見ることの叶わないセントヒルズホスピタルの特製パンフレットには、いったいどんな彼女の経歴がかかれているのか、気になって仕方がなかった。

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