気付いたらゴーストでした。
「ただ指をくわえて見ている事しかできなかった私は……。しょせんは脇役だった、って話よね…」

 冷蔵庫から出したオレンジジュースをコップに注ぎ入れ、僕の前にも置いてくれる。

 当然、飲めないのを彼女は知っている。

 僕の視線に気付き、花純さんは「ごめんね」と力なく笑った。

「私の失恋記念日。付き合って?」

 そう言って僕のコップにカチンとコップを合わせる。

『でも、まだ……。そうと決まったわけじゃないですよ?』

 何の根拠もないのだが、彼女に少しでも笑って欲しくて無責任な言葉をかけてしまう。

 花純さんは眉を垂れて微笑んだ。

「ありがとう、ゴウくん。私の事、慰めてくれてるのね。優しいね?」

『………いや』

 僕は彼女から目を逸らし、先ほどいれてくれたオレンジジュースを見つめた。

 物体や物質には触れないので、味わう事はできないけれど。

 瑞々しい柑橘系の香りに触れて、幾らか懐かしい気持ちになる。

 香りだけでオレンジジュースを楽しみながら、僕は花純さんをチラチラと盗み見る。

 彼女は幽霊(ゴースト)を題材にした恋愛映画を見ながら、お総菜に箸をつけていた。
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