気付いたらゴーストでした。
「自分の事、分かりますか? 名前とか……生年月日とか」

 僕はコクンと頷き、淀みなく答えた。

「市ヶ谷 蓮、平成十五年、七月十七日生まれ、です」

 主治医の先生は、うん、と笑みを絶やさずに頷き、「大丈夫そうですね」と言った。

「それじゃあ、蓮くん。二、三質問するけど。どうしてここにいるのか分かりますか?」

 僕はパチパチと瞬きを繰り返し、視線を自分の手元に落とした。

 目覚めてすぐは頭が働かなかったけれど、なぜ病院にいるのかは分かる。

 事故に遭ったからだ。

 信号のある横断歩道を渡っていて、すぐそばに迫るトラックに撥ねられた。

 事故直前の映像が頭に浮かぶ。

 俺は……。そう。

 花屋に行くところだった。

 毎週水曜日の儀式のごとく、花屋に行ってバラを買い、今そこにいるお姉さんに……告白しようと決めていた。

 僕の頭の中で映像がカチリカチリと組み立てられる。

 まるでばらばらに散らばったパズルのピースが合わさっていくみたいに、記憶の波がうなりをあげて打ち寄せた。

「学校帰りの交差点で……事故に遭いました」

「そう。日にちはいつだったか、思い出せますか?」

「……えと。五月最終の水曜日……、確か二十七日だったと思います」

「うん、そうですね」

 瀧先生は母さんに向き直り、数日の間は異常が無いかどうかの検査を必要とするが、今のところは問題ないでしょう、と説明していた。
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