溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
 突然できた味方にうれしくなる。

「病気で来る人しかいないから、あなたみたいな明るい子がいてくれると、こっちも元気になるわ」

「みなさまのお力になれるように、精一杯頑張ります」

 ガッツポーズを見せたわたしに、おばさまは小さな拍手を送ってくれた。

 そうこうしているうちに会計に呼ばれたおばさまは、帰り際にも「頑張ってね」とわたしに声をかけてくれた。

 緊張していたけれど、思わぬ応援をうけて俄然やる気がでてきた。昔から越える山が大きいほうが頑張れるのだ。

 診察時間を大幅に過ぎて、最後の患者さんの診察が終わった。それほどこのクリニックに訪れる患者さんが多いということだろう。それはなによりも医師である先生に対する信頼の証だ。

 患者さんは正直だ。最初は近いからとか新しいからという理由で訪れても最終的には医師の腕に頼ってやってくる。自らの命を預けるのだから当たり前のことだ。

 そんな医師のもとで働けるとすればなんとすばらしいことか!

山科瑠璃(やましなるり)さん、こちらにどうぞ」

 受付の真鍋さんから診察室に入るように言われたわたしは、建前の志望動機で邪(よこしま)な本音を包み込んで、面接に向かうべくもう一度気合いを入れた。

「こちらです」

 診察室に入るとすぐに処置室がある。左側は受付に通じるドア。奥の戸棚には本がたくさん並んでいて、医療用の啓発ポスターなんかが壁に貼られている。

 この奥に……いるんだっ!

「よろしくお願いします!」

 元気よく頭を下げたわたしに、浴びせられたひと言は……。

「お前、こんなところでなにやってるんだ?」

 想像通りの、冷たい台詞でした。

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