溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
症例3
症例3

 和也くんと一緒に働きはじめて三カ月。

 産休に入った那夕子さんから引き継いで、日々の仕事にもやっと慣れてきた。それに毎日毎日和也くんの顔を見られることの喜びは、なににも勝ってわたしをやる気にさせた。

 しかしまあ恋が進展しているかと聞かれれば応えは否だ。いつもどおり塩対応の和也くんをカッコいいと、一方的に思っている図式は相変わらずだった。

 診療が終わって片付けをしていると真鍋さんが近づいてきて小声で話かけてきた。

「ところで、中村先生とはどうなってるの?」

 興味津々と言った様子で尋ねられた。けれど報告できるようなことはなにもない。

「それが……一進一退どころか、ずっと膠着状態です」

「ほーん、まあ、あの先生のことだから仕方ないか。でも、諦めるつもりなんてさらさらないんでしょう?」

「もちろんです! 和也くんへの思いは筋金入りですからっ!」

 ガッツポーズとともに、声高に宣言する。

「おい、くだらない話をしてないで、手を動かせ」

「ひっ」

 背後から氷のような和也くんの声が聞こえて、思わずビクッとしてしまう。気まずくてゆっくりとふりむくと、彼は真鍋さんの方を見ていた。

「悪い、俺先に帰るから。後片付けお願いします」

「はい。わかりました。お気をつけて」

 真鍋さんがそういうと、和也くんはさっさと帰っていってしまった。

「めずらしいですね。こんなに早く帰るなんて」

 これまで三カ月間、診療が終わった後も彼はクリニックに残っていることのほうが多かった。

 だからわたしもあれこれ理由をつけて残ってこっそり彼を見ていたのだけれど。

「もしかしたら……ご実家でなにかあったのかも。ここ最近多いのよ。先生スマホだと電話に出ないこともあるから、こっちにかかってきてるの」

 そう聞いて、この間の帰り際の和也くんのことを思い出した。

「そうなんですね……」
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