溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
「今、先生のこと和也くんって言った?」

「え、あ。はい。すみません」

 思わず興奮して、普段の呼び方をしてしまった。焦って頭を下げる。これでは印象が最悪だ。

 しかし真鍋さんの反応はわたしの心配とは正反対だった。

「ねえ、あなた……えーっと、名前は……」

「山科瑠璃です」

「そう、山科さん! ここでわたしと働こう!」

「!?」

 いきなりのことに驚いたのは、わたしだけでなく、和也くんもだった。

「おいおい、真鍋さん。いきなりなに言い出すんだ? 俺の話を聞いてただろ? こいつは俺のストーカーだぞ」

 慌てて止めに入った和也くんを、真鍋さんはキッと睨み付けた。

「お言葉を返すようですが、これまで面接に来た人は、なにが気に入らないのか先生が追い返したじゃないですか。それにやっと採用されたと思ったら、先生についていけずにすぐに辞めちゃうし。このままだと那夕子さんがクリニックを辞められずに、ここで出産することになりますよ。そんなことしたら、川久保製薬を敵に回してこんな小さなクリニック潰れちゃいます」

「おい、小さなって……ひどくないか?」

 たしかに! わたしは和也くんの言葉に、うんうんとうなずく。

「ともかく、わたしは川久保さんを早くゆっくりさせてあげたいんです。山科さんなら、先生の難のある性格を知っても尚、面接に来るような方ですから逃げ出すこともないでしょうし、それにさっき待合室での様子を見ていましたけど、患者さんに接する態度も花丸でした。だからもう彼女しかいません。はい、採用!」

 マシンガンのごとく早口でまくしたてる

「おい、決めるのは俺だから――」

「先生、ちょっといいですか?」

 それまで黙って成り行きを見守っていた川久保さんが、急に口を開く。和也くんも彼女の方を見て、その意見に耳を傾けようとする。

「今、彼女の履歴書を拝見したんですが、大学病院の小児科で勤務されていたと書かれています。こちら先生の出身大学でしたよね。たしか全国的にも評判の小児科だと聞いています」
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