【完】スキャンダル・ヒロイン〜sweet〜

私に気づくと細い瞳を緩ませ、手を上げた。意外に意外だ。
帝王と呼ばれるくらいだから、もっと恐ろしい人をイメージしていた。

恰幅が偉く良いとか。金色のアクセサリーをじゃらじゃらつけていたり、ぶっとい葉巻を咥えていたり

…寧ろもっと年齢のいっている人だと思っていた。

「あ、静綺ちゃん…」

けれどその男とは対称的に振り返った山之内さんの顔色は冴えなかった。

「あのー…ただいま大学から戻りましたぁ…。たっさんから色々聞いて…取り合えず来たんですが」

ちらりと男の顔を見上げると、彼は汚れのひとつも無い真っ黒の革靴をコツコツと音を立ててながらこちらへやってきて

私の前で頭を下げた。その行動も意外…ではあった。けれどどこかに違和感があった。

「初めまして。棚橋静綺さん。自社のタレントがお世話になっております。」

にこりと一見優しい微笑みを見せているようだが、この人…目が全く笑っていない。違和感の正体が分かった。

「はじめまして…。いえこちらこそお世話になっています!」

長岡 守(ナガオカ マモル) と申します。
グリュッグエンターテイメントの代表取締役を務めております。
よろしくお願いします」

「よ、よろしくお願いします…!」

「まぁそう固くならずに、ソファーにでも座って下さい。
山之内さん彼女にお茶をお願いします」

「いえ…!お茶ならば私が!」

私がそう言うとそれを制止して、山之内さんへ目配りをした。

直ぐに立ち上がった山之内さんは心配そうな瞳で私を一瞥して、そそくさと事務室から出て行ってしまう。
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