若きビル王とのエキサイティング・マリッジ
刺激的な夜
午後七時過ぎ、テナントビルの正面玄関で私を待っていた男性は、「松崎と申します」と名乗り、丁寧にお辞儀をしてから私の掌に名刺を乗せた。


「橘悠大様の秘書をさせて頂いております。本日は、大泉様を社内へお連れするように…と承り、お迎えに上がらせて頂きました」

「はあ?」


社内って…どういうこと?


「悠大様がオフィスでお待ちかねでございます。どうぞ、こちらへ」


ガチャリと背後に停めていた黒塗りの車体のドアを開け、お乗り下さい…と促してくるのだが。


(ちょっと…いくら何でも、この高級車に乗れって言うの?)


どう見ても外国産よね、とボンネットの上を見つめ、相手の顔を見返しながら、冗談じゃない…と頬の肉を痙攣らせる。


「あの…オフィスって、一体どれくらいかかるんですか?お近くなら私、歩いて行っても構いませんけど」


所詮は庶民だから徒歩には慣れている。
今日は着物も着ていないし、歩くのに困るほどの高いヒールも履いてない。


「オフィスは、彼方(あちら)のビルでございますが……」


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