あの丘で、シリウスに願いを
翔太の予想通り、展望台は、右も左も、体を寄せ合ったカップルばかりだった。彼らは自分たちの世界にどっぷりとつかり、ガラス窓のそばを占領していた。まことは窓に近づくことも出来ない。

「やっぱりなぁ。全然見えないね」
「レストラン行ってよかったです。夜景楽しめたから。これじゃ私、何のために来たのか」

眉をひそめてため息をつくまこと。

「しょうがない。ここは恋人達に譲ってあげよう。どうする?横浜に帰るなら送るよ?」
「私、着替えていいですか?この服は素敵だけど寒くて。着替えたらちょっとヒルズの周りを歩いてみようと思います。元々終電までいるつもりだったし」
「着替える?そっかじゃ、ちょっと待ってね」

翔太はスマホを取り出した。

「あ、ジュン?さっきはありがとう。あのさ、俺たちの着替えってどうした?
あ、なるほどね。オッケー。忙しいのに悪かった。今度埋め合わせするからさ」

ヒソヒソと小さな声で話している電話の相手はどうやらジュンのようだ。

「着替えはさ、俺の部屋に届けてあるって」
「俺の、部屋?」
「あー、俺さ、住まいはココなんだよ。ベリヒルのレジデンスが本当の自宅なの」
「今は空き部屋なんですか?」
「うん。まぁいずれ東京に戻るし、月に一回くらいは泊まるからね」
「翔太先生のことだから女の子連れて、でしょう?」

からかい半分で冗談めかして言ったまことに、翔太は特大のため息をついた。

「あのさ、俺のこと、どれだけ遊び人だと思ってるわけ?
まー、とりあえず行くか。ついてきて」

< 86 / 153 >

この作品をシェア

pagetop